クレーム対応というと、「怒っている顧客に謝罪する業務」と考えられがちです。しかし、顧客との関係を長期的に育てる営業・マーケティングの視点では、クレーム対応は単なるトラブル処理ではありません。顧客が抱いた不満を把握し、問題を解決し、その後のフォローアップまで丁寧に行うことで、失われかけた信頼を回復する重要な顧客接点になります。
実際、組織の苦情対応と顧客行動を分析した研究では、補償、従業員の対応、対応プロセスといった企業側の対応が、顧客の「公平に扱われた」という認識や対応後の満足度を介して、ロイヤルティやポジティブなクチコミなどに関係することが示されています。
ただし、「クレームを発生させれば、以前より顧客満足度が高くなる」という意味ではありません。重要なのは、そもそもクレームを減らす努力を続けながら、発生した場合に迅速で誠実なクレーム対応を行うことです。
本記事では、クレーム対応が顧客満足度と信頼関係に与える影響、具体的なフォローアップ方法、さらにリピート営業や再発防止につなげる仕組みについて解説します。
クレーム対応が顧客満足度と信頼関係を左右する理由
結論からいえば、クレーム対応が重要なのは、顧客が「問題が起きたこと」だけではなく、「問題が起きた後に企業がどう対応したか」も含めて企業を評価するからです。
例えば、商品に不具合があった際、問い合わせても返答がない、担当者によって説明が異なる、何度も同じ話を求められるといった状況になれば、最初の商品トラブル以上に不満が大きくなる可能性があります。
一方で、顧客の話を丁寧に聞き、状況を確認し、解決方法や対応期限を明確に示せれば、「問題はあったが、きちんと対応してくれる会社だった」という評価につながる可能性があります。
苦情対応に関する国際規格ISO 10002:2018でも、苦情を受け付けやすい顧客志向の環境を整えること、申出者のニーズや期待を把握すること、効果的で利用しやすい苦情対応プロセスを設けること、さらに苦情を分析して商品・サービス改善へ活用することが示されています。ISO 10002:2018は2023年に確認され、現在も有効な版とされています。
クレーム対応では、特に「結果」「対応者」「プロセス」の3つを意識すると整理しやすくなります。
| クレーム対応の要素 | 顧客が確認するポイント | 実務で意識したいこと |
|---|---|---|
| 解決結果 | 問題が解消されたか | 交換・修正・再対応などを明確にする |
| 担当者の対応 | 誠実に扱われたか | 傾聴、説明、適切な謝意を示す |
| 対応プロセス | スムーズに解決できたか | 期限、担当者、次の連絡を明確にする |
| フォローアップ | 解決後も気にかけているか | 後日、問題が解消したか確認する |
| 再発防止 | 同じ問題が繰り返されないか | 原因を分析し社内で共有する |
2011年にJournal of Service Researchで公表された苦情対応研究のメタ分析でも、補償だけではなく、従業員の好ましい対応や組織の対応手続きが「公平に扱われた」という顧客認識につながり、それがクレーム対応後の満足度やロイヤルティなどへ結びつくモデルが支持されています。
つまり、クレーム対応では「いくら補償したか」だけではなく、「どのように向き合ったか」までが信頼関係を左右するのです。
顧客の不満を信頼に変えるクレーム対応とフォローアップの方法
クレーム対応で最初に行うべきことは、反論や説明ではなく「事実と顧客の不満を正確に把握すること」です。
顧客が怒っていると、担当者はすぐに事情を説明したくなるかもしれません。しかし、顧客の話を途中で遮り、「それは弊社の責任ではありません」「通常はそのようなことはありません」と説明を始めると、問題そのものだけでなく「話を聞いてもらえなかった」という新しい不満を生みかねません。
実務では、クレーム対応を次の流れで標準化するとよいでしょう。
まず、顧客の話を最後まで聞き、何が起きたのか、顧客が何に不満を感じているのかを整理します。次に、事実確認が必要な場合はその場で曖昧な回答をせず、「確認したうえで○日までにご連絡します」と期限を示します。
事業者側に不備が確認された場合は、問題となった事実に対して適切に謝罪し、解決策を提示します。そして解決後も、「その後問題なくご利用いただけていますでしょうか」と確認するフォローアップを行います。
クレーム対応の基本プロセスは、次のように整理できます。
「傾聴」
↓
「事実確認」
↓
「謝意・必要に応じた謝罪」
↓
「解決策の提示」
↓
「対応期限の明示」
↓
「実行」
↓
「解決後のフォローアップ」
特に重要なのが最後のフォローアップです。
2014年に公表された、欧州15か国の大規模な消費者データを用いたオンライン購買研究では、ネガティブな経験後に苦情を申し出た顧客の中でも、苦情対応に満足した顧客が最も高い再購入意向を示したと報告されています。
ただし、この結果を「クレームが発生した方が顧客ロイヤルティは高まる」と単純化するのは適切ではありません。
いわゆる「サービス・リカバリー・パラドックス」について2007年に行われたメタ分析では、適切な問題解決後に満足度が高まる効果は確認された一方、再購入意向やポジティブなクチコミ、企業イメージについては全体として有意な効果が確認されませんでした。
したがって企業が目指すべきなのは、「クレームをリピーター獲得のチャンスとして発生させること」ではありません。
クレームを可能な限り予防し、それでも発生した場合には迅速かつ公平に解決し、「この会社なら何かあってもきちんと対応してくれる」という安心感を残すことです。
クレーム対応からリピート営業につなげる仕組みと再発防止
クレーム対応をリピート営業につなげるためには、担当者が個別に謝罪して終了するのではなく、「記録・改善・フォロー」の仕組みを会社として作る必要があります。
例えば営業担当者に「説明が分かりづらかった」というクレームが入った場合、その顧客だけに説明し直して終われば、一時的な問題解決にしかなりません。
契約時の説明資料、営業トーク、申込フォーム、利用開始後の案内などを確認し、「なぜ誤解が生じたのか」を分析すれば、同じクレームを防ぐ改善につなげられます。
ISO 10002:2018でも、苦情を単に解決するだけではなく、苦情を分析・評価して商品やサービスの品質改善へ活用し、苦情対応プロセス自体の有効性や効率性を見直すことが示されています。
そのため、クレーム管理表やCRMには最低限、
「発生日」
「顧客名」
「発生した問題」
「顧客の要望」
「原因」
「実施した対応」
「対応完了日」
「再発防止策」
「フォローアップ予定日」
などを記録しておくとよいでしょう。
さらに営業部門では、問題解決直後に新しい商品を売り込むのではなく、まず顧客の状況が正常に戻ったか確認することが重要です。
例えば、
「先日対応させていただいた件ですが、その後問題なくご利用いただけていますでしょうか」
と確認し、問題が解消していることを確認してから通常の顧客関係へ戻します。
このプロセスを踏まず、クレーム解決直後に追加契約を提案すると、「謝罪の後に営業された」と受け取られる可能性があります。
リピート営業につなげる順序としては、
クレーム発生
↓
迅速な一次対応
↓
原因確認と解決
↓
顧客への結果報告
↓
一定期間後のフォローアップ
↓
信頼関係の正常化
↓
必要性が生じたタイミングで再提案
という流れが適しています。
航空サービスを対象とした研究でも、クレーム対応において、顧客が担当者とのやり取りや対応手続きを公平だと感じることが、対応への満足度に有意な影響を及ぼし、さらに全体的な顧客満足度を介してロイヤルティへつながることが示されています。
つまり、リピート営業につながるのは「クレームが発生したから」ではありません。
クレームというマイナスの顧客体験に対して、企業が誠実に向き合い、問題を解決し、再発防止まで行った結果として信頼が回復し、その後の再購入・再契約の可能性を残せるのです。
まとめ|クレーム対応は「問題解決」で終わらせず信頼回復まで設計する
クレーム対応がリピーターにつながる可能性がある理由は、問題発生後の対応そのものが、企業の姿勢を顧客に示す重要な接点になるからです。
ただ謝罪するだけでは十分ではありません。顧客の話を聞き、事実を確認し、解決策と期限を示し、問題を解消した後もフォローする。そして同じクレームが発生しないよう、原因を社内で共有して改善するところまでが本来のクレーム対応です。
Tplus株式会社では、クレームを「その顧客だけの問題」として処理するのではなく、営業・商品・サービスを改善するための重要な顧客情報として活用することをおすすめします。
まずは過去3~6か月のクレームを一覧化し、「原因」「対応内容」「再発の有無」「フォローアップの有無」を確認してみてください。同じ内容が複数発生している場合、そのクレームは担当者個人ではなく、業務プロセスそのものを改善すべきサインかもしれません。
クレームを減らす仕組みと、発生時に信頼を回復できる仕組み。この2つを同時に整えることが、顧客との長期的な関係を育て、リピート営業につなげる基本となります。
引用・参考URL
ISO
「ISO 10002:2018 Quality management — Customer satisfaction — Guidelines for complaints handling in organizations」
https://www.iso.org/standard/71580.html
Journal of Service Research
Gelbrich, K. & Roschk, H.
「A Meta-Analysis of Organizational Complaint Handling and Customer Responses」
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1094670510387914
Journal of Service Research
de Matos, C. A., Henrique, J. L. & Rossi, C. A. V.
「Service Recovery Paradox: A Meta-Analysis」
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1094670507303012
Internet Research
Bijmolt, T. H. A., Huizingh, E. K. R. E. & Krawczyk, A.
「Effects of complaint behaviour and service recovery satisfaction on consumer intentions to repurchase on the internet」
https://doi.org/10.1108/IntR-03-2012-0056
Journal of Air Transport Management
Chang, Y. W. & Chang, Y. H.
「Does service recovery affect satisfaction and customer loyalty? An empirical study of airline services」
https://doi.org/10.1016/j.jairtraman.2010.05.001
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